読みやすいです。主人公「ぼく」の、最高の成長物語。読み終えたときは、とても幸せな気持ちで本を閉じました。
あらすじ
小学六年生の夏。ぼくと健太、陽介は、勉強も運動もできない落ちこぼれ。だが『アーサー王の物語」に感動したぼくの発案で、三人で「騎士団」を結成。クラスメイトにからかわれながらも、憧れの美少女、有村由布子をレディとして忠誠を誓う。彼女を守るため、隣町で起きた女子小学生殺害事件の犯人探しを始めたが―――。あの頃のみずみずしい思いが蘇る、ひと夏の冒険を描いた最高の少年小説。(紹介文引用)
この小説の魅力~ここがイイ!~
本の序盤、大人になった「ぼく」が、「12歳だったあの夏、ぼくの人生が変わった」などと語る口調で話が始まります。どんなもんかと思いながら読み進めましたが(すぐに12歳のぼくの物語になります)、さすが百田尚樹、飽きさせない工夫が上手いです。そして後半までいくと、感動と共に非常に納得がいきました。確かにこの夏が僕を変え、今後のぼくの人生を変えた。そして一気にクライマックス。引き込まれて、あっという間に読み終えました。
※以下、ネタバレ含む感想です。
前半の少年3人の言動は、厨二病全開で、滑稽で、痛々しくて、かわいい。
学年一の美少女、有村さんにクラス全員の前で忠誠を告げるところなど、小学生男子らしい一生懸命さが哀れで滑稽で、思わず笑ってしまいました。
主人公の「ぼく」は、残念な落ちこぼれ感満載。クラス皆の前で、「模擬試験で100位以内に入ってやる!」と豪語し、でも家に帰ると教科書すら開けず漫画を読んだり(しかもそれを何日も繰り返す)それでいて「できる自分」への妄想だけは豊か。まるでドラえもんののび太を連想させるような、残念な奴感が漂っています。
でも、半分ほど読み進めたところで、クラスの嫌われ者「壬生さん」と2人でダンスを踊ることになったあたりから、「おっ」と思うようなります。ぼくに小さな勇気の芽がでてくるんです。
このあたりのぼくの心の変化と、そのきっかけとなる出来事の描写などが本当に自然で、見事だと思いました。脇役だと思っていた壬生さん、実はすごい子だった!
結論から言うと、この夏、ぼくは「生き方に対する心意気」みたいなものが大きく変わりました。例えば、がむしゃらに勉強するという経験を通して、「勉強とは、精神に負荷をかける筋トレみたいなもの」だとぼくが自分で気づく場面などは、なるほどなあ、と思うと共に、そういったことに自分で気が付けるぼくの潜在能力に感心しました。だって、親には放任され、あまり恵まれた家庭環境とはいえない中(勉強とかも完全放置されてる)、友人との関わり合いだけで、こんな大切なことに自分で気がつける、ってなかなかできることじゃないですよね。たまたまいい友人に恵まれたのも、ぼくにとっての幸運だったのだと思います。
そして、時々でてくる少女殺人事件は不気味で、この物語にスパイスを効かせています。筆者の筆力で、最後まで本当に飽きさせられませんでした。そして最後のあの3行ー。予想はしていたけれど、本当に幸せな気持ちになりました。なんて素敵。読んでよかった。