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女子高校生の一人称で書かれていて、とても読みやすかったです。大きな事件が起こるわけでもないのに、なんとなく続きが気になって、一気読みでした。
主人公(ハツ)はクラスのはみ出し者、もう1人の主要人物である男の子(にな川)も同じくはみ出し者で、華やかさゼロの二人。大人への変容途上にいる10代の、自意識と無自覚の狭間にいる状態がリアルに、みずみずしく伝わってきて、若かりし頃の自分と重なる部分がありました。気がついたらあっという間に本の終盤。「終わってほしくない」と思わされ、読了後には、「この作者さんの他の小説も読んでみたい!」と調べてみたところで、初めて本書が芥川賞受賞作品だったと知りました…笑(図書館でたまたま出会った本でした)
あらすじ
高校生のハツとにな川はクラスの余り者同士。理科の実験のクラスでたまたま隣になった二人は、なんとなく会話をかわす。ある日ハツは、オリチャンというモデルのファンである彼の部屋に招待されるが……。
感想(若干のネタバレあり)
まず、にな川のオリチャンに対する、ひそやかな熱情がなかなかすごいです。授業中も彼女が載っている雑誌を眺めているなど、オリチャンしか見えていない彼は、自分がクラスで浮いていることには全くの無頓着です。
一方主人公のハツは、クラスでひとりぼっちでありながら、「クラスメイトは皆レベルが低い」「自分は付き合う人を選んでいるだけだ」と自身に言い聞かせています。彼女自身は気がついていないのですが、読み手には、実際は彼女は自分に自信がなく、うまく人とコミュニケーションがとれないことに劣等感を感じていることがたびたび伝わってきます。
本当は全身でクラスメイトたちの目、存在を意識していて、この年頃は、一緒に行動してくれる友人がクラスにいること、彼らに認めてもらえていることが最重要事項のような状態だった(当時は無自覚でしたが)ことを懐かしく思い出しました。
そして彼女が興味を持つようになるのが、にな川という男子。ハツの彼への好奇心の大部分は、おそらく「自分よりも下」という軽蔑や見下しの気持ちでしょう。ですが私は、読み進めるにつれてそこに恋に近い感情も潜んでいるように感じました。(本人は完全否定していますが)
ときおり彼女の中に湧き上がる「彼が痛がるのがみたい」衝動って、彼に対する欲情ですよね。オリチャンに異様に入れ込んでいる彼の気持ち悪さ、痛々しさにイライラし、痛めつけたくなる嗜虐的な感情の他に、彼女の嗜好が、まだ性的なものとは結びついていませんが、無自覚に彼の前に表れている気がしました。自分でもよくわからない感情に翻弄される――思春期って振り返るとこんな感じだった気がする――となんとなく懐かしい感覚になりました。そして、にな川も、オリチャンのことは置いといて、なかなか魅力的な男の子のように感じました、個人的に。穏やかなところとか、妙に達観しているところとか。そこが筆者さんの上手さなんでしょうね。
10代をとうの昔に過ぎさり、歳を重ね、いつのまにか本当に「付き合う人を選び」「1人でも全然平気」になってしまった今の私にとって、過ぎし日を思い起こすひとときを与えてくれた、素敵な一冊でした。