「街に躍ねる」感想・レビュー・あらすじ

人間ドラマ小説

この本を読み終えた時、まるで陽だまりの中にいるような、穏やかで温かな感動に包まれていました。「自分が大事だと感じることを大事にして生きること」の尊さが胸に沁み、穏やかで丁寧な文体、出来事の巧みな繋げ方、寂しさや切なさを払拭させるラストの温かさ、どれもが素晴らしかったです。家族小説の傑作だと思います。

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あらすじ

小学校5年生の僕と、高校3年生のお兄ちゃん。お兄ちゃんは絵がうまくて、頭がよくて、優しい。僕はお兄ちゃんが大好きだ。ただ、お兄ちゃんは不登校で、集中すると走り出してしまう癖がある――。

感想(ほとんどネタバレなし※本文からの引用少しあり)

まず、小学生の「ぼく」の感性が、本当に純粋で、素直で、確かに小学生の頃ってこんな感覚を持っていたなぁ、とときおりクスッとさせられます。一方で、ぼくの健気さ、葛藤に切なくなる場面も多くありました。まだ子どもであるからこそ、ぼくの違和感やモヤモヤは本質をついています。お兄ちゃんのすごさを人にうまく伝えられず、「数字や賞や名前がないとき、人にすごさを伝えるのは難しいな」と感じたり、自分のクラスメイトが兄のことを「(コミュニケーションが苦手で)かわいそう」と表した時には「こんな風にぼくをイラつかせるんだから、権ちゃん(※クラスメイト)だってコミュニケーションが得意なわけ、ないじゃないか。少なくともぼくは権ちゃんと気持ちよく仕事ができるとは思えない」(「街に躍ねる」本文より引用)と心の中で思ったり。まだ小学生という幼さの中での彼の疑問、口惜しさ、葛藤が読んでいて切なかった。

一方、お兄ちゃんからポツポツと発せられる数少ない言葉からは、彼の人間性――深い知性、ぼくへの優しさ、家族への静かなおもいやりなどが伝わってきます。お兄ちゃんの絵の実力や、没頭力、感性を見ても、彼は本物の芸術家なんだろうな、と思わされました。

感想続き(※完全ネタバレあり)

本書終盤で、描写が母親ターンになると、そこで明るみになった事実に、私の今までの思い込みと切なさが払拭され、心が温まっていました。お兄さんが内緒で学校を休んだ日、彼は実父からの手紙を内緒で受け取るつもりでした。私はこの事実を知るまで、お兄さんが学校に行けなくなった理由は、彼の特徴(急に走り出したり、人とうまく話せなかったり)が原因だと想像していました。ですが、事実は違った。彼が「内緒に」休んで実父と連絡をとったのも、今の家族への配慮があったからだろうし、その後休み続けたのも、彼にとって絵を描く時間の方が、本当に大事だったからなのだろうと感じました。

お母さんが「兄を連れて秋田へ引っ越す」とぼくに告げた時、私は「お母さんはなぜよりによって元夫と一緒に住むんだ?」と邪推しました。そして、家族がバラバラになると不安を感じるぼくがかわいそうで、思わず涙してしまう場面もありました。ですが実際は、家族はちゃんと揺るぎない絆で繋がっており、ぼくの感じた疎外感も全く的外れなものでした。

――外から見る者は勝手に同情したり、邪推したり、評価をします。ですが、実際は、ぼくも、お母さんも、お兄ちゃんも、お母さんの現夫も、そして不器用な元夫も、みんな、自分の大事なものを大事に選択し、生きていました。この物語がきれいに繋がった時、じんわりと心が温まり、本当に静かな感動がありました。

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