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”今、まさに子育て真っ只中”だという人に刺さる小説だと思います。おそらく誰もが、子供を愛する気持ちと同時に、我が子に期待する気持ちを持っていて(例えば、「何かに優れていて欲しい」など)、もしもその気持ちに際限がなくなってしまったら―――。中学受験に挑む親子の、あまりに凄絶な道のりに、「自分は絶対にこうはならない」と思う一方で、「この母親の気持ちもわからないことはない…」と読みながら感じる時もありました。読書中、苦しい気持ちになりながらも、圧倒的に読ませるストーリーでイッキ読み。子供にとって本当に大切なことは何か、改めて突きつけられた本でした。
あらすじ
見ていたCMがきっかけで、有泉円佳の息子、翼は塾の全国模試を受け、中学受験を目指すことになった。中学受験に縁のなかった円佳だったが、難関校も狙えるという翼の成績に期待は膨らみ、息子への愛おしさと共に、成績への渇望が入り交じっていく。
出典:Amazon商品ページ
くわしく感想(完全ネタバレあり)
私は、子供の受験の経験がまだありません。なので、息子を心から愛する円佳(母親)が、中学受験へ次第にのめり込んでいく様子にまず思ったのは、「自分は絶対にこうはならない」でした。(経験がないから何とでも言えますね…)
たった8歳の子に、親が望む言葉を巧みに誘導して子供に言わせ、「次の試験でいい成績をとる」ことをあたかも本人が希望したかのように親子で目標設定する。幼く無邪気な翼は、もちろん勉強を頑張ります。せっかく友達も多く、水泳が好きだという翼を、円佳が次第に勉強一色に染めていく様子には、読んでいてにがい気持ちになりました。
その一方で、円佳が翼に期待してしまう気持ちは、同じ親としてリアルに想像できました。特に翼のような優秀な子だったらなおさら―――。超個人的な話になりますが、私も、自分の子供に対する期待感を自覚した経験が何度かあります。例えば、ある習い事の発表会で、自分の子が他の同年齢の子より明らかに下手だった時。正直に言います、内心ガッカリしました。「これは向いてなさそうだな、やめさせた方がいいのだろうか」ということまで心をよぎりました(本人は頑張っているのに)。つまり、もしも逆に自分の子が突出して上手かったら、きっと嬉しいでしょうし、もっともっとこの得意を伸ばしてやりたい、と当然ながら思ったでしょう。こんな感情はあまり口に出しては言いたくないものですが、実は自分の中にも当たり前にある感情だと思いました。(ただ、それを子に対して言葉や態度に表すかどうかは、別です)
しかし、翼が10歳の段階になると、私は円佳にとうてい共感できなくなりました。彼が壊れかけていることにも気づかぬフリをし、とにかく勉強させる様子は、もはやホラー…。なぜ中学が人生のゴールじゃないって(親が)気がつかないんだろう、と、その視野の狭さが不思議でした。これが中学受験の怖さなのでしょうか…。
12歳になって、成績が下がった息子に対し「受験を辞めろ!」と怒鳴る父親。「辞めたくない!」と泣き叫ぶ息子。凄絶です。子供はまだ幼くて純粋で、親の価値観が全てです。ここまできて受験を辞めるなんてありえないと親が思っていて、同様の価値観に完全に染められた子供に、「受験を辞めろ!」とあえていう親の卑怯さ。
翼があまりにも可哀想で、読んでいて苦しくて、彼が壊れる寸前にようやく円佳は過ちに気がつくのですが、この母親、なんでこんなに視野が狭いの?馬鹿なの?と腹がたっていました。(めちゃくちゃ感情移入してる笑)
過ちに気づいた円佳のこの言葉は、心に刺さりました。「我が子の羽ばたきは、円佳の世界をいっそう明るくしてくれた。そしてその光はすべて、まごうことなき本物だった。自分が本物の光たちを、貪欲にかき集め、比べたり、凝視したりして、もっともっと増やそうとしたことを思った。光は光のまま、ただ抱き止めてあげればよかった。(光文社「翼の翼」本文より引用)」これは自戒を込めて自分も覚えておきたい表現だと思いました。
小説内では、凄絶な時間を経て、両親が考え方を改め、翼もなんとか踏みとどまり、いい感じに終わりましたが、翼は無傷ではいられなかっただろうと想像してしまいます。そして、そもそもの中学受験の意義についても考えさせられました。受験を決めたからにはその決断に至る理由(メリット)が各家庭ごとにあるのだろうし、そのためにはまだ幼い子供に上手く声かけをして頑張らせざるを得ないのでしょうが、それが度を越すと今度はデメリットの方が大きくなってしまう。小説内にも登場したような本物の天才君はともかく、そうではない場合、「どこに目標を設定してどこまで頑張らせるか」が、子を想う親として1番難しい、葛藤の部分なのだろうなと感じました。