「BUTTER バター」感想・レビュー・あらすじ

人間ドラマ小説

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ある程度人生経験を積んだ、大人女性におすすめ。また、人の心や関係性の変化に興味がある方、人間観察が好きな方におすすめの一冊です。実際の事件を題材にした、「食」と「女の生き方」を描く社会派小説。

深い…!素晴らしい小説でした。

情報量や考えさせられることが多く、途中で一旦本を置き、自分の中で内容を咀嚼してから再び本を開く、ということを何度か繰り返しました。ストーリーももちろん面白いのですが、女として興味深く感じる部分が多かったです。自分が主婦として毎日する「料理」への向き合い方にも影響がありました。すっと腑に落ちたり、感動したり、一方で薄気味悪さを感じたり、衝撃を受けたり―――読んでいてさまざまな感情に振り回されながらも、ラストは良い読後感でした。

あらすじ

男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ──。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳に〈あること〉を命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。

出典:Amazon商品ページ

かなり個人的な感想(ネタバレあり!)

読み始め序盤で、主婦として心に残る、こんな一文がありました。

「職場でも、一回り上の世代の既婚の男達はどことなく伸びやかだ。多忙な彼らの妻の多くは専業主婦らしい。そうした生き方は考えたこともないけれど、彼女達が家族に与える力の大きさはよくわかる。毎日少しずつ溜まるパートナーの澱(おり)を夜ごとにリセットしてくれるのだ。澱は放っておくといつしか身体を蝕む(柚木麻子『バター』新潮社)」ー自分が主婦であることもあり、自分はその重要な役割を担っているのだ、と個人的に日常の働きを肯定してもらえたような気持ちになりました。また、小説内では、料理が人に与える影響は、皆に意識されている以上にとても大きい、ということを何度も突き付けられます。主人公「里佳」が梶井に言われて作った焼きたてのカトルカールは、確かに彼氏の心をほぐし、彼の態度を軟化させましたし、読者の誰しもが、誰かのおいしい手料理に癒されたり、焼きたての焼き菓子を振舞われて嬉しかった、という経験はあると思います。料理には人の心に響く、なにか大きな力がある、というのは事実です。

ただ、だから自分も夫や家族のために作るべきだ、と思うと途端に面倒な、嫌な気持ちになることがあります。なぜなんでしょうか。その答えが、小説で描かれていた、男たちがもつ価値観(日本特有のものかもしれませんが)なのかもしれない、と思いました。

梶井の主張はこうです。

「女らしさや男へのサービス精神をけちれば異性との関係は貧しいものになる(柚木麻子『バター』新潮社)」と。梶井の主張に対し里香は、こう思います。「それならプロになるしかない、男に舞台裏を見せずにエンターテイナーに徹し続けるには、社会人生活や母親業を諦めるしかないじゃないか」と。「プロを求める男と、人生を共にする相棒を求める女(柚木麻子『バター』新潮社)」この一文が、私にはとても腑に落ちました。言い得て妙。男は、多かれ少なかれ女の手料理を愛情だと受け取る節がある。里佳の彼氏は、そんな価値観を持たず、理解のある男だと里佳は元々思っていましたが、やはり彼にもその価値観の片鱗を感じることになります。これと似た葛藤を少しでも感じたことのある女性って意外といるんじゃないでしょうか。また小説内では、妻と子に捨てられた年配男性が、投げやりで荒んだ一人暮らしをしている話があり、確かに、このような孤独な男のパターンはよく聞くな、とも思いました。

一方、この小説では、料理の味覚がとても鮮やかに紡がれています。読んでいるだけで香りや舌触り、温かさや余韻までもがリアルに伝わってきます。里佳が次第に料理の楽しさ、奥深さに気づいていくのと同時に、私も美味しいものが食べたくなり、自分自身のために料理を楽しんでみたくなりました。気がついたら私も、里佳と一緒に梶井の言動に影響を受けていました。

里佳とその友人怜子は、ある境地に達します。すなわち、「掃除や料理とは、本来ロックなもので、非常にパワーが必要なもの。1人の作業に没頭し、自分が快適に過ごすためのバリアを築く行為である」と。誰かへの愛情とか、そんな生優しいものではない。それを認めた時、掃除や料理は、私にとっても自分が楽しむべきものとなりました。しかも、自分が楽しみつつ、相手が勝手に愛だと思い、満足してくれるなら、一石二鳥ではないか。という思いまで浮かびました。(とっても打算的な考えなのは承知です笑)ただ、これはあくまで私個人の感想であり、様々な環境で生きるそれぞれの人は異なる捉え方になると思います。自分が疲弊しない「適量」を上手く見つける、ということも本書のテーマであると感じました。

最後に、ストーリー自体への感想も少し。

梶井の最後の、里佳へのどんでん返しは、やはり衝撃的でした。やっぱり殺人犯で、常軌を逸していて、恐ろしい。それでも、彼女が料理教室の女性達に焼くつもりだった七面鳥が冷蔵庫に残っていたという事実から、梶井の本当に求めるものは、友人だった、ということがわかります。里佳は、梶井からの強烈な攻撃にダメージを受けるものの、やがて「それが梶井のコミュニケーションなのだ」と受け入れ、立ち直ります。強い。真の意味で、この人は強い。梶井のような女がどうやっても手に入れられない「女同士の友情」や「仲間たちとのつながり」を大切にしながら、かつ梶井とのやりとりから得た「自分を大切にする」という気づきもしっかり日常に落とし込んで、これからを生きていくであろう里佳の様子に、最後はいい読後感で本を閉じました。

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