おすすめ小説「狐笛のかなた」作:上橋菜穂子(和風ロマンスファンタジー・キュンとする小説) 

一般小説

野間児童文芸賞と産経児童出版文化賞を受賞した小説です。児童文学の扱いですが、とても面白く、これほど面白い小説を子供だけに読ませるのはもったいない!!と切実に感じました。読書経験の長い大人でも、絶対に楽しめます!

「狐笛のかなた」のあらすじ

12歳の小夜はある日の夕暮れ、犬に追われる子狐を助けた。この狐は、霊狐の野火だった。
小夜は16歳になる頃、唯一の同居人であったおばあちゃんも亡くし、たった一人、山奥で畑仕事をしながら暮らしていた。小夜には人の心が聞こえる<聞き耳>の力があり、彼女の出自には人目を避けなければならない理由があったのだ。

そんな彼女を、いつも遠くから見つめている若者の姿があった。それは、いつの日か小夜が助けた、霊狐の野火だった。彼はただの霊狐ではなく、主人に人を殺すための使い魔として縛られている霊狐だった。隣り合う国の争いに巻き込まれ、呪いを避けて森蔭屋敷に閉じ込められている少年をめぐり、小夜と野火の、孤独でけなげな愛が燃え上がる……。

この小説の魅力~ここがイイ!~

まず、霊狐の野火にたびたびキュンとさせられます

夜の山道で野盗に襲われた小夜を助けるために、野火が初めて小夜の前に姿を現す場面がこちらです。

若者は小夜のもとへ歩みよると、手を小夜にさしのべた。その手から、血と、なにか奇妙な匂いがした。———それを嗅いだとたん、腹の底から恐怖がわきあがり、小夜は、歯をならしてふるえはじめた。

若者は、はっとして手をひっこめ、しばらくたたずんでいたが、やがて、衣で手をふいて、もう一度そっと手をさしのべてきた。

彼の初の登場シーン(人間の姿としては)で、私はさっそく心を持っていかれました。彼は物静かですが、心優しい霊狐で、自分を救ってくれた小夜のことを忘れず、ずっと陰で見守っていた、一途で情の深い性格です。(しかもイケメン)

そして、この小説の魅力二つ目は、古き日本の美しい風景が存分に描かれているところです。
どこか郷愁を誘う世界観です。
満月の光に照らされたすすきの原が、銀色の水のように波打っていく様子、芳しい香りを放つ梅の林、あたり一面を薄紅色に染め上げる満開の桜…。全ての情景描写が、非常に美しい文体で書かれています。

三つめは、世代を超えて続く人間の恨みと憎しみがありありと描かれている点。隣国同士の土地争いがこの物語の大筋なのですが、呪術を使って互いが家族を犠牲にしながら憎しみあっている様子に、なんとも言えない、やるせなさを感じます。一方で、憎しみ合いの道具とされる野火や小夜たちが、運命に向き合い、ただひたすらに自分の想いだけをしっかりと持って生きていくけなげさに、胸を打たれます。最後には感動のクライマックスが待っています!

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