あらすじ
西暦2231年、人類が暮らしている小惑星アキレスにて。
水色の瞳の少年リュセージと、黒髪の少年ワランキの二人は、ある日、終戦広場に放置された宇宙戦艦に忍び込み、信じられないものを目にする。一方、2014年、北アルプス・コロロギ岳の山頂観測所にて。
女性天文学者、岳樺百葉(だけかんばももは)のもとにも、得体のしれない巨大な物体が突如あらわれていた。なんとこれは、時の泉を泳ぐ知性生命体だった…。少年2人の危機を救うため、2231年と2014年が”つながる”。新感覚のタイムSF長編。
この小説の魅力~ここがイイ!~
面白く、1日で読み切りました。
テンポよく進み、簡潔に物語が1冊で終わりますが、物語はしっかりしています。不思議な気持ちになるタイムSF。難しくないので、SF初心者の方にもおすすめです。
登場人物が生き生きとしていて、会話のやりとりも面白いです。百葉が腐女子で、少年2人をそっちの目で見たりするのは私としては楽しかったです…笑 まあそれは置いといて。
この物語はタイムトラベルではなく、時間が”つながる”んです。どういうこと?と思われるかもしれませんが、読めばわかります。これを無理のない設定にするために、丁寧に時間軸が作られています。
この斬新な発想がさすが小川一水先生。
この作者の本を読んでいつも思うのが、この果てしなく広大な宇宙空間と時間の中で、”自分”ってホントにちっぽけな点なんだな、と。それでも人の行動や思いが未来に、遠い星に、影響を与えうるという、どこか前向きな気分を、この本を読んで味わいました。読みやすいので、ぜひ気分転換にどうぞ。
さっぱりした読後感です。
最後に、物語内で、時の知性生命体「カイアク」が百葉に告げた言葉から心に残ったものを少し引用します。
「何度も言うが、不幸な君も幸運な君も、どちらもまだ存在していない君なんだ。それは消えるのではない。ないからない、になる。――――今、この場にしか生きていない君が、過去や未来の君のことを考えるから、そのように混乱するのじゃないか。君は今の君だけでしかいられないんだ。言うなれば、君は想像力というしっぽの種を、植物の根にからめとられてしまっているんだ。引っ込められるならば、引っ込めたらどうだろう?
カイアクにとっては、まさに文字通りの事実を説明しているだけなのですが、なんだか啓発的な言葉だな?と思った部分でした。
また、この本が好みだった方には、ぜひ、読んでいただきたい同作者のシリーズがあります。「天冥の標」シリーズです。とんでもなく壮大で面白く、深い感動に包まれるSF超大作全10巻なのですが、この本の紹介はまた別の機会に…。